行けども坂 皆生完走記 (ミスタービーン)
聞く相手を間違えたのか、「まあ、坂はありますけどねー、そんなでもないっすよ」
と、バイク小僧の山口。皆生で同宿したトライアスリートたちで、そんなことを言うや
つはいなかったぞ。「3回目ですけど、バイクではいつも泣きたくなりますよ」この辺
が常識的な感想というものだ。
7月18日、本吉、対馬の2名は早朝のエアニッポンで米子空港へ、さらにバスを乗
り継いで皆生温泉に到着した。それぞれの宿へ向かい、バイクを組み立て、車検会場の
皆生海浜公園へ。話に聞いたとおり、車検は入念で、ハンドル、タイヤなど力をかけて
チェックする。バイクは問題なかったが、ヘルメットの紐のゆるみを指摘され、その場
で調節。ようやくOKが出て、ゼッケンをはってもらう。昼食を済ませ、海で試泳する
という本吉さんと別れ、バイクコースの下見バスに乗り込む。空席をさがしていたら、
鉄人の女王、若林さんに遭遇、仲良くすわって出発となった。バイクコースはかなり複
雑だが、要所要所に標識が設置してあるので分かりやすい。
皆生に来る前の想定では、バイクの主な難所は2個所と考えていた。まず第一は40
キロ地点から大山へ向かって300メートル地点までの、約7キロほどの上りである。
これはほぼ箱根の風祭から大平台までの高低差に近い。ただし皆生のこの区間はほぼ直
線ではあるが。第二は60キロ地点からの2キロほどの急坂である。これは例えるなら
ば湘南国際村をちょっと長くしたくらいだと思っていた。これらはいずれも当たらずと
いえども遠からず、まあそんなものだったのだが、問題は「あとは大したことない」と
思っていた(思いたかった)はずの、その後のコースだ。バイク下見ツアーはこの二つ
目の坂を過ぎたところで以下省略、皆生温泉へと帰途につく。
さて、4時からは選手受付、説明会である。時間があるので海を見に行く。なんと大
波ざんぶりこ状態である。スイムコースとおぼしきあたりを眺めても、まだコースブイ
もない。大丈夫なんだろうか、と心配になる。こんな波じゃ間違いなく「対馬る(おぼ
れる)」じゃないか。
開会式&選手説明会は簡潔で好感の持てるものであった。さすが日本トライアスロン
発祥の地、回数をこなしているだけあって、米子市長はつまらないジョークも平気でと
ばすし、ルール説明も細かいことは一切言わない。ただし、今日のコンディションでは
スイム中止もありえる、というのが気になった。その決定は明朝5時に行うとのこと。
夕食を済ませ、ビールを買って本吉さんの泊まる「かんぽの宿」へ向かうがフロント
ですげなくシャットアウトされ、しかたなく明日の健闘を約するのみ、宿へと帰った。
同室のトライアスリートたちは8時半だというのにすでに寝息をたてている。仕方なく
寝る。
4時起床、食事の後、スタートの健康増進センターへ。昨日のような風はなく、雲も
高く穏やかそうな天候である。バイクを押して行くと、途中、いったん宿へ戻るらしい
選手たちから、スイム中止らしいとの情報。まさか、と思いつつさらに行くと大会本部
のアナウンスが聞こえてきた。次第にうねりの出る予想があるため、スイムは中止、と
。もちろん、過酷な条件下でスイムが決行されることを望むわけではないが、それでも
、やっぱりトライアスロンがやりたかった、、、、。
種目の変更に伴って、スタート時間は7時30分へと繰り下げられ、なんとなく緊張
感が途切れてしまった気分だ。スイム3キロに代えて1stランは7.8キロ、海岸沿
いの歩道を往復するコースである。入水チェックならぬスタートチェックを受け、スタ
ート間近になった頃、ぱらぱらと雨が降りだした。これはバイクで体が冷えるかもしれ
ないと、あわててトランジッションに戻り、ランシャツをバイクジャージに着替える。
いよいよスタートラインに並ぶ。ほぼ集団の真ん中くらい、これではマラソンのスタ
ートとまるで同じ雰囲気だ。ピストルの合図とともに、いよいよ皆生トライアスロン、
ではないデュアスロンがスタートした。
ファーストランのコースは幅は狭いが、私の前後の集団はキロ5分を切るくらいのペ
ースで整然と折り返しを目指す。マラソンのスタートとも、本牧のデュアスロンのスタ
ートとも違う皆生のスタートとなり、どんなペースで走ったらいいのかよく分からない
。自分の周囲の集団は皆、ここで焦ってもしょうがない、という感じかもしれない。3
キロほどで本吉さん、さらに若林さんとすれ違う。走りながら海を眺めると昨日ほどの
波はなく、今更ながらスイム中止が残念だ。やがて折り返し、バイクトランジッション
へと向かう。1stランのゴールは37分02秒、キロ4分45秒ほどで、思ったより早い。ヘル
メットを着け、バイクシューズをはいてバイクラックへ。スイムと違いこれだけ選手が
密集していると、バイクスタートは混乱するかもしれないと思っていたがそれほどのこ
とはなく、TREKのペダルを踏み始める。
スタートからしばらくは畑と民家の間を縫うように曲がりくねった狭い道が続く。こ
の辺はバスが走れないほどの道で、下見でも遠くから眺めただけだ。まったく知らなか
ったらおそらく戸惑うに違いない。やがて日野川の土手から今年新たに舗装されたとい
うトライアスロン専用コースを南に向かって走る。コースはまったく平坦で思わずペー
スが上がる。10キロを過ぎるとしだいに山間部に入っていくが、まだほとんど平坦と言
っていいほどのコース。これから先を考えれば少しペースを落とした方がいいのか、と
も思うが、脚は終始目一杯踏んでいる。コースは反時計回りに大きな円を描くようにや
がて北上、20キロを過ぎると梨畑の中を短いアップダウンが始まるが、ここで驚いては
いけない(と昨日の案内でも言われた)。30キロほどで再び日野川の土手に出、さらに
曲折を繰り返して大山のふもとへと向かっていく。40キロ、いよいよ最初の長い登りへ
とかかる。
この春初めて山中湖のバイク練習会に参加した経験から、トレックにはリアに25Tま
で
のカセットを装着している。これで急な坂でもゆっくりとシッティングで上れるはずだ
、と思っていたが、登りがきつくなるとやはり体重に任せて21Tくらいでダンシングし
たほうが早い。大山の中腹にさしかかり、左側にフィールドアスレチックのような施設
が見えると、長い登りも終わりに近い。ここからは、これまた延々10キロ以上も続く長
い下り。これを下りきると60キロ、例の二番目の急坂にかかる。2キロほど登り、ふた
たびそのぶんだけ下る。これであとは大した坂はないだろう、とこれはかなり楽観的な
勘違いだった。
バイクコースは広域農道をさらに東へと折り返し点をめざす。行けども行けどもアッ
プとダウンと急なカーブの繰り返し。さらに時おり雨がはげしく降りかかるようになる
。路面は乾いた部分は完全になくなり、下りのカーブでは恐怖さえ感じるほど。強くブ
レーキをかけるのも、カーブでバイクを倒し込むのも危険だ。従って下りでも余りスピ
ードは出せない。バイクトラブルで停止している選手も見かけるようになる。(若林さ
んが落車したのもこのあたりらしい)。さすがにアップダウンの疲労がこたえはじめ、
ダンシングを繰り返しているうちに、しだいに腰が痛くなってきた。練習不足と体重オ
ーバーのせいか…。カーボンフレームとスピナジーは太めの体には堅すぎるのかもしれ
ない。
80キロ。道がやや高原状に平坦になり、左折するとエイドステーションがあり、やが
てバイクコースは西へ向かって折り返す。今回バイクにセットした補給食はカーボショ
ッツと梅干し。ボトルにはヴァームを薄めて入れてあった。エイドステーションではバ
ナナとおにぎりを交互にもらう。おにぎりには振りかけがまぶしてあり、おいしいが手
が汚れるのが難だ。
来るときの下り坂が今度は上り坂になる(当たり前だ)。気がつくと先ほどまで前後
に何人かいたはずの見慣れたゼッケンの選手はおらず、後ろから来る選手にどんどん抜
かれはじめた。上り坂では極端にスピードが落ち、わずかな平坦部分でも25キロ/hくら
いしかでない。例の二つ目の急坂を下りおりるとようやく120キロ、ここから大山道路
までの最後の上りには私設のエイドがたくさんいる。何とか上り終えるとあとは20キロ
を残すのみ。田園地帯を抜け、日野川の土手の残り10キロは平坦だが、すでにDHポジシ
ョンをとり続けるのもつらい。抜かれてもついていく力はすでにない。ようやく皆生温
泉に到着。これでやっとバイクから降りられる…。
バイクラックには思ったよりたくさん空きスペースがあった。皆生の街ではうっすら
と陽も射している。バイクパンツの下にはスイムパンツをはいており、スイムパンツだ
けで走ろうかと一瞬考えたが、思い直して着替えのテントに。ランパン、ランシャツに
着替えていよいよランにスタート。
皆生の街を抜け米子に向かって5キロほど走ると、コースは右折して境港へ向かう。
エ
イドステーションは2.5キロごとにあり補給には困らないが、どうしても足を止める回
数が増えてしまう。やはりバイクでの脚の疲労がはっきりとわかり、脚が重い。数キロ
走れば快調になるはず、と思う。
今回の目標は、宮古島での12時間19分を切ることと、あわよくば11時間台でのフィニ
ッシュと考えていた。バイクトランジッションではほぼ6時間25分くらいで、スイムが
なかった分だけ当初の予想よりは早いと思ったが、それではランをどのくらいのペース
で走ればいいのか、などと考える余裕はない。ひたすら走るだけ。そして出来るだけエ
イドで休まないようにするだけだ。
最初の5キロは32:00、足は少しも軽くはならない。TJ誌でもおなじみの歩道橋はゆ
っ
くり歩いて渡る。15キロの手前のあたりで、本吉さんがいつもの軽快なフォームで復路
を戻ってきた。あれ、意外にすれ違うのが遅かったな、ひょっとして10キロ差ぐらいか
なと思ったが、これはまったくの勘違いである。実際にはこの時点で15キロ以上、最終
的には20キロ以上の差になっている。
コースはいったん海沿いへ出、さらに左折して米子空港へ。15キロを過ぎて若林さん
とすれ違う。20キロ、折り返し付近にさしかかると、ふたたび雨足が強くなってきた。
すれ違うランナーたちからは次第に疲労の色がうかがえるようになる。当然自分もそう
であろう。
ずいぶん前から右足の裏が気になって仕方なかった。シューズの選択を誤ったためで
ある。走り出してすぐから違和感があったが、はっきり水泡が出来ているのがわかって
いた。折り返しのエイドに救護所があったため、ここでテーピングをしてもらう。足を
ぐるぐる巻きにされ、走りにくい。25キロ、エイドではもう何も食べたくはない。先ほ
どの救護所で、一人倒れているランナーがおり、この天気では熱中症でもないだろうか
ら低血糖か、少しずつでも補給しなければと思う。エイドで立ち止まり、ボランティア
と言葉を交わしていると、全員で声を揃えて「対馬さんガンバレー」とエールを叫んで
くれる。実に贅沢な応援である。30キロ、そろそろ最終ランナーが来るはず。折り返し
を過ぎてからは着実に追い抜けるようになった。すでに歩いている人も多い。自分も歩
きたいほどだが、歩けばゴールは近づかない。余計に辛くなるだけだ。35キロ、ようや
く米子の街へ、ふたたび歩道橋を渡る。往路ではほとんどランナーを優先させてくれた
が、選手の間隔が広がっているため、信号で止められることが多くなる。そのたびに交
通整理のボランティアの高校生と無駄話をして気を紛らわせる。「君たちも大変だねー
」「選手の皆さんほどじゃないですよ」「俺はもうすぐゴールするからいいけど、君た
ちは10時まででしょ」「そうなんですー」といった調子。茶髪の子もいるし、定位置の
そばにこっそりタバコの箱が置いてあったりするが、みんないい子だ。
今回、皆生での目標の一つにランパートで5時間を切りたい、と考えていた。キロ7分
、5キロラップが35分である。昨年の宮古島では5:00:20で、20秒オーバーとなった。
そこで今回は何としても4時間台としたいところ。しかし、すでに25キロでの5キロラッ
プは37分、30キロでは38分をオーバーしている。タイメックスを見てもトータルタイム
と5キロラップの表示だけだから、バイクトランジットの6:25を引いて計算しないとラ
ンのタイムは分からない。この時点でまだ可能性があると気がつけば若干のペースアッ
プは出来たのか、あるいは最後のエイドをパスすればよかったのだろう。しかし足はた
んたんと同じペースでゴールまでの距離をこなすのが精一杯だ。ラスト2キロ、ここま
で前後しながら併走してきた選手が抜いていき、20メートルほど先行、もう一度抜き返
すのは無理だな、と思っていると、後ろから50代半ばくらいの選手がかなりのペースで
あっというまに2人とも追い抜いていった(この人、あとで記録を見たらラン4時間22分
だった)。もうこれで順位は変わらないだろう。皆生温泉のゲートをくぐり、右折する
とあとはゴールまで500メートルほど。先行の選手は先ほどから自転車で併走してきた
奥さんとペアでゴールするらしい。少しペースを落とさないとゴールで接近しそうだな
、と思うが後ろも気になる。赤いじゅうたんが敷かれたゴール前、ゴールテープを張り
直すのを待ち、両手を広げてゴール!。時間は午後7時5分ほど前、あたりはまだ十分に
明るい。メダルとスポンサー提供のビールを受け取り、ひとり充実感に浸ってゴール周
辺の出店の周りを意味もなくうろつく。思い出してあわててタイメックスを止めた。
全身汗みずくのまま、しばらく体育館の中で休憩。仮設のシャワーがあったので、冷
たい水を浴びて汗を流す。トランジッションバッグを背負い、バイクを押してようやく
暮れかかってきたランのコースを逆にたどり、宿へと向かった。
トータルタイムは11:25:55。スイムがなかった分、30分かそれ以上早かったのだろ
う。ひょっとするとスイムがあっても12時間を切れたかもしれない、などと勝手に考え
ている。ランのタイムは何と5:00:32、宮古島と12秒差。分かっていたらもっと頑張
ったのにー、これが実力というものか、、、。結局、バイクではちょうど100人に抜か
れ、ランで54人を抜き返したことになる。正式な結果は以下の通り。
・第18回全日本トライアスロン皆生大会(7月19日)
(1st Run7.8Km- Bike140Km- 2nd Run42.195Km)
(総合) 1stRun Bike (種目)(通過) 2ndRun
本吉 民男 9:16:38 (164位) 0:30:51(122) 4:48:27(233)(220) 3:57:20(156)
若林 洋子 9:38:30 (226位) 0:32:43(202) 5:05:57(360)(338) 3:59:50(172)
対馬 達也 11:25:55 (475位) 0:37:02(429) 5:48:21(533)(529) 5:00:32(433)
以上