ただ完走のためでなく………アイアンマンケアンズ2016  ミスター・ビーン

■パームコーブは大波、恐怖のスイム
「どうしたの、顔色が青いよ」とジャムおじさん。平静を装っていたのだが、バレバレであったか。笑ってごまかそうとするのだが内心の不安は隠しようもない。
それでなくてもスイムは苦手なのに、朝からパームコーブの海岸にはドドーンと音がするほど大波が打ち寄せている。

これはまずいと、先ほどまでいつになく念入りに試泳をしていたのだが、ついに安定して泳げる呼吸を見つけることができなかった。去年の台湾以来、1年2カ月ぶりに着るウエットスーツがきつくて仕方ない。「これってフロントジッパーだったよね」と隊長に聞く始末。そんなもん、買った当人しか知るわけがないだろう。

6月12日の朝、2年ぶりのパームコーブ。天候があまり良くないであろうことは説明会でも言われていたが、今朝シャトルバスを降りてバイクラックに向かう途中から雨が降り始め、しばらく雨宿りしなければならないほどの本降りになった。今は小やみにはなっているが天候は不安定なようだ。
スイムは4組のタイムゾーンに分かれてのローリングスタートだが、遠慮がちに3組の中ほどに並んだ鉄人メンバーたちは、砂浜で列も何もなく大集団の中に混じっているうちにだんだん後ろの方に遅れていって、ついにほとんど最後方からのスタートになってしまった。7:35(?)にエイジグループがスタートして、ローリングスタートで泳ぎ始めたのは8時過ぎくらいだろう。


■残り100メートル、あわや肩たたき?
大波にもがきながら最初のブイへ、ここから4つのピンクのブイが置かれた長方形のコースを左回りに2周回する。長辺約800メートル? 短辺約100メートル?くらいの長方形のコースである。

最初の直線の途中ですでにエリート選手に抜かれ始める。やがて集団で抜かれ始め、なんとかバトルにならないようひたすら無抵抗主義で防戦。
1周回を終えて、ようやく抜かれることもなくなってひと安心。タイメックスはウエットの袖で覆っているのでどのくらいかかっているのか確かめようもないが、どうもずいぶん遅いような気がしている。
2周目はさらに波が大きくなっている。2周回の復路、大波が間隔をおかずに襲ってくるような状態で、なかなか進まない。右オープンだから沖側の呼吸になるのできつい。ブイもなかなか見えず、前方に見えるひょうたん島の左端あたりを目標にしているのだが、波に流されて、ブイのたびに沖へ戻り直さなければならず、ジグザグの泳ぎになっている。ようやく最後のブイが近くに見えるようになってきた頃、サーフレスキューが近づいてきて、なにやら海岸のほうを指さしている。これはひょっとしてスイムを中止しろといっているのかな? それでも最後のブイまであと100メートルくらいしかないのだ。そりゃーないだろうと無視してそのまま泳ぎ続ける。モーターボートのレスキューも近づいてくるが、最後のブイを回ってゴールの方向へ向かいだしたら、レスキューは離れていった。ようやく海岸へ、大波に足をすくわれて、二度、三度、海に引き戻されそうになりながら、何とか砂浜に上がる。どうも危ないと思ったのか右の方にいた選手が心配して手を差し伸べてくれる。ボランティアがグッドジョーブ! と声をかけてくれる。スイムのタイムは1:35くらい。

思ったほどひどくはない、やれやれ。トランジッションの手前でチエさんとばったり。スイムの途中で砂浜に上がらせられたとのこと。それでもゴール認められるの?と心配そう。

■あいも変わらず完走だけが目標?
いやー、ひどい海だったな、とテントの中でしばし脱力。ウエットの袖がなかなか脱げない。見かねてボランティアが手伝ってくれる。バイクラックからバイクを取り、トランジッションエリアの最後方(つまり最高齢AGのほう)から延々とバイクを押して、ようやくバイクスタート。



今年はコースを間違えることもなくUターン、ポートダグラスを目指して北上する。一昨年はミスコースしてしまったので、とにかく1人でも前へ出なければ、と焦ったあげくバイクの終盤で足が売り切れてしまった。

今回ももちろん最後の方であることに変わりはないのだが、今年は焦らない。
ときおりエリート選手が追い抜いて行く。昨夜よく眠れなかったせいか眠い。やがてMotoさんが声をかけてすれ違っていく。
コースは右折してポートダグラスの街へ。コロニアル風のレストランが並ぶメインストリートを通り、大きなモニターのある折り返しを回る。
ポートダグラスを折り返すと風が向かい風に変わって、いきなりペースダウン。とりあえず無理せずアップダウンを越えていく。ケアンズはきつい坂はないが、そこそこのアップダウンはある。北向きの往路より南へ向かう復路の方が上りは若干きつい。

先ほどからプロファイルのエアロボトルがステムに当たってガタガタと音がする。土曜の朝にテストライドした時も若干当たっていたので、クッションを張っておいたのだが、ほとんど役に立っていない。中身が減って軽くなると余計ひどくなるようで、路面によっては相当ひどく振動するので結構ストレスである。仕方なく手で押さえている。

70キロ過ぎ、ふたたび折り返して2周回目に入る。しばらく行くとスペシャルニーズのエイドがある。今回スペシャルの中に入れたのは大会受付でもらったレッドブル、ちなみにランのスペシャルにはこれも大会支給の“TIM-TAM”の食べ残しを入れておいた。
これも毎度のことながら補給の準備などほとんど何も考えていないのである。レッドブルを一気飲みしたら眠気もスッキリ解消した。ふたたびポートダグラスへ。2週回目からはコース上は選手の間隔も広くなってきた。ポートダグラスの街を出れば、あとはケアンズまでの一本道。

用意したジェルは前半で使い果たし、エイドステーションではバナナをもらいジェルをもらい、バーをもらう。2周回目からはジェルがなくなりバーばかりもらう。
固くてあまりうまくはない。エイドステーションもそろそろ店じまいが近い。
アップダウンを過ぎて左前方にひょうたん島が見えてくる。パームコーブを過ぎ、ラウンドアバウトをいくつか通過し、コースは左折して市街地へ入っていく。残り20キロほど。バイクでほとんど無理をせず、サイクリング状態できたせいか脚はまだまだ大丈夫。
やがてケアンズのエスプラネードに入る。バイクゴールまでの1キロほどはランコースに沿って走るから、コース右側の応援がバイクの身には辛い。
いかにも遅い選手が帰ってきた、みたいで格好が悪いのである。

■余裕か?これが限界か?ランは淡々と
バイクを押してトランジッションに入ると、すぐ目の前に同じエイジのオーストラリア人のピーターがいる。彼はレガシーでハワイにも行ったベテランなのである。
そしてその前にジャムおじさんの背中が見える。バイクでコケたとのことで膝をすりむいている。一緒にテントに入り、仲良く並んで着替えをする。バイクパンツも気持ち悪いから替えようか、タオルでよく足をふいてからソックスをはかないと…、ゼッケンベルトも忘れないように…などとやっていると、早くもジャムおじさん着替え完了、「行くよ」とひと言、テントを出ていく。早い。
自分は毎度トランジッションに時間がかかるのだが、あわてると忘れ物をするので困る。
トランジッションを出るとすでに上位でゴールする選手のアナウンスが聞こえる。スタートで30分以上の差はあるはずだが、ここまでで9時間ちょっとである。ランコースに出てすぐに周回ゴムをもらう。これから1周約14キロのコースを3周回。まずヨットハーバーを通って南へ。ナミさんが来る、モトさんが来る、すれ違いざま「ツシマ、頑張れっ!」と檄が飛ぶ。
まずい…、ヘロヘロしているところを見つかると叱られるのである。そしてジャムおじさんが来る、トランジッションでは一緒だったのに速いなー。2キロほどでコースの南の端、港の船着き場のようなところが最初の折り返しである。ここまでのコースが一昨年とちょっと違っている。

ここから再び北へ、エスプラネードを通って海岸沿いの公園の中へ、さらに盲腸のような折り返しがあって、コースの北端は空港の手前まで行って折り返す。一昨年は雨の中のランだったが、今回はバイクの後半からは降られていない。足元も気にしないで走れるので気分的にも楽である。ランコースにはやたらたくさんエイドがある。いちいち止まって何かに手を伸ばしてしまうのだが、これだけたくさんあるとタイムにも響くから、なるべく1つおきにパスするようにする。すでに最初の1周回で暗くなる。再びエスプラネードへ、ゴール脇でゴムをもらって2周回目へ。
エイドによって水の質が違うのか、妙にカルキ臭の強いエイドがある。気を付けているのだが口に入れた瞬間に失敗したと思う。コーラが欲しいのだが、実際にコーラがあるエイドは2個所くらいしかなくて、「コーラ」と言っているように聞こえるのは「ワラー」なのである。エナジードリンクもあるのだが薄めてあるので効き目のほどはどうか。あとはスイカ、これはあまり甘くはないが水よりましで、後半はほとんどスイカばかり口にする。2周回目のスペシャルで“TIM-TAM”を3つほど食べる。公園の途中のエイドで薄いドリンクを飲んでいたら、「ストレートもあるよ」とおじさんが缶のままのレッドブルを出してくれた。ラッキーである。再び北端で折り返してエスプラネードへ。3つめのゴムをもらって3周回目。もうモトさんはいないだろうから安心だ。

■独り占めのフィニッシュロード、感動モノのゴール
盛大な応援のあるレストラン街も、すでに応援するほうもくたびれたのであろう、先ほどのような賑わいはない。
ランコースは単純な折り返しではないから、コース上の距離表示だけが頼りである。ひたすら淡々と7分ペース。それでも去年の台湾に比べれば気分的にはまだまだ余裕がある。盲腸の折り返しを過ぎたあたりでパナさんに追いついた。脚の故障か歩きが入っている。
空港手前の折り返しを回り、ここからはゴールまで最後の一直線だ。たしかエスプラネードの手前に40キロの表示があったはずだが、と思いながら見落としたらしく、エスプラネードへ。これはもう2キロはない、あと1キロくらい?
すでに前後のランナーも少なく淡々と走っていたのだが、前方にランナーが見えてきた。まずい、追い越したらゴール直前までもつれるかもしれない、とゴールの心配をしだす。あと残り500mもないだろう、仕方なく追い越す。なんと同じエイジだ。しばらく様子を見るが追いついてくる気配はない。前方にはもう誰も見えない。左へ曲がってゴールわきの直線へ、そこから右へUターンするとそこがゴールである。ゴールのアナウンスは先ほどから途切れたままで、前のランナーとはしばらく間が空いていたらしい。これはラッキーだ。ゴールへ入っていくと名前と年齢がアナウンスされて大歓声が起きる。後ろからも誰も来る気配はない。ゆっくりと一人ひとりハイタッチしながらゴールへ。ここで1分、2分遅れたってそれが何であろう。次々に差し出される手にゆっくりとタッチしながら、歩いてゴールへ。アイアンマン14回目のゴール。タイムはどうあれ、この充足感は何ものにも代えがたい。


■結局、のんびり走ってしまったのだ!
レース全体のイメージも、ゴール後の疲労感も、一昨年のケアンズ、昨年の台湾ほどではない。
一昨年はミスコースしたショックもあって、バイクで焦り過ぎたのがランに響いた。昨年の台湾はバイクコースがきつかったこともあって、ランは最初から最後まで本当につらい思いをした。

今回はひたすら無理をせず、バイクでもムラのない走りを心掛けていたので、ランでもそれほど辛い思いをせずに済んだ。結局のところ、のんびり走ってしまったということなのかもしれない。ちなみにバイクでかなり余分な距離を走った一昨年より、全体で8分遅かった(!!)。スイムはほぼ同じ。バイクも2分早いだけ。ランに至っては9分遅い。タイムへの執念が感じられない? まあそういうことかも。



BIB 1562
Div Gender Overall rank
30 889 1081

Swim 1:35:44 (1287)
Bike 7:05:00 (1238)
Run 5:11:01 (1081)
Overall 14:18:22
T1: 16:23 (←ウエットがなかなか脱げなかった)
T2: 10:14

…ちなみに2014年は…
Swim 1:35:25
Bike 7:06:55
Run 5:02:23
Overall 14:10:55
T1: 13:57
T2: 12:15

最後に、スイムで亡くなった方が1名いたそうです。ご冥福を祈ります。


IM Cairns 2016 ビーン