相変らずのスイムとバイク、ランは上出来
2006 アイアンマンジャパン GOTO NAGASAKI 完走記
Mr.ビーン

 5月28日、早朝。選手を満載したバスは富江キャンプ場に到着。例年のように会場の周囲に立て並べた大漁旗が強風になびいている。これまでも風が吹かない年はほとんどなかったが、今年は陸から海への南風、例年とは風向きが逆である。スイム会場の富江の湾は北東方向に開いており、北からの風に弱い。2003年には大荒れとなって大勢のリタイヤを出したが、今回のような南風では海は大きく荒れることはないはずだ。

 いつものようにナンバーを書き入れてもらった後、今年は酸素飽和度の測定というチェックがある。指先をクリップのような測定器具で挟むだけで完了するのだが、正常値の範囲は98-99で、極端な異常値が出ると医師の診察を受けなければいけないらしい。これは98とかで問題なくOK。バイクラックは昨年同様トランジッションの一番奥で、去年と2台横にずれただけ。ボトル、補給食をセットして準備完了。

 あとはスイムの仕度をして、プレスイムバッグに着替えを入れて預けるだけである。ところが、何気なくタイヤを回してみると後輪のトレッドに蚊の目玉くらいの砂粒?が食い込んでいる。つめの先でほじってみると、意外に頑固で外れない。いやな予感がしたのだが、爪を立てて強引にほじると、プチッという感触があり、ごく微かにシューッとエアが噴出してきた。あのまま気が付かなければ180キロくらいもったかもしれない。などと悔やんでも仕方がない、あわててスペアタイヤを付け替えてスイム会場へ移動する。

 さて、新調したフルウエットスーツを着る。昨年は低水温に加え、途中から降り出した雨でスイムの間中、体中に震えがくるような寒さに襲われた。今年もホームページで低温に対する注意が呼びかけられていたので、急きょフルウエットスーツをオーダーしたのである。前の週に完成したばかりだから、着るのは初めてだ。それとウエットキャップと言うのか、頭部から顎の部分が隠れるキャップを着用する。レース前のアナウンスによると水温は18.4度、気温も同じくらいとのことである。

 今年からスタートはプロが6:58分、エイジグループは7:00と二回に分かれている。プロ選手の紹介が終わり、選手たちは次々と海へ。昨年までは早めに入水してフローティングで待機する状況だったが、今年はプロの入水後まで待たされたので、いつもより遅い。後ろのほうに並んでいたら、スタートの5分前くらいになってしまった。ゆっくりとスタート地点へ向かい、このあたりで良いかと顔を上げてみると、いきなり周囲から歓声が上がり、いっせいにスタートしていく。あわてて時計を見ると7:00である。呼吸を整える暇もなく、そのままスタート。

 まずは呼吸を上げないように、バトルをよけながらゆっくりと沖へ向かう。思ったほど水温の低さは気にならない。追い風のせいか折り返しまでは意外と早く感じた。ここから右へ曲がり岸と平行に200m。右オープンなので岸からの風を受け、波がまともに顔に当たるようになる。水を飲まないように、呼吸に気をつけながら再び右へターン。岸の方向へは向い風となり、今度はなかなか進まない。沖合いでは波も結構大きく、ヘッドアップするたびに波が顔に叩きつけてくる。

 一周回を終えて浜に上がり、二周目へ。すでにトップの選手は二周回を終えようとしているであろう。ブイの向こう側に、続々とスイムゴールに向かう先頭集団が見える。とにかく無事に3.8キロ泳ぎきることだけを念じ、ひたすら泳ぎ続ける。昨年の佐渡のときのように鼻の奥が塩辛く、いやな感じである。ふたたび周回を終え、スイムフィニッシュに向かう。意識して少しペースを上げてみると右へ右へとそれていき、かえってロスが多くなる。コースロープにぶつかっては修正しながら泳ぐ。やがて海底に岩場が見え出し、消波ブロックを過ぎると浜が近い。ようやくスイムゴール、ラップタイムは1:47。テントで真新しいパワーバーのバイクジャージを着る。寒さを予想して用意したアームウオーマーはとりあえず背中のポケットに入れる。

 スイムの順位は592位と自分としては速い。もっとも参加者が異例に少ないのも事実であるが。(ちなみに完走者は595人。)レースナンバーはカテゴリー順のアルファベット順であるから、ほぼ同じ年齢の選手がかたまっている。バイクラックにも数台並んで残っている。コルナゴを押してスタートラインへ。キャンプ場を抜けて左折しようとしたとき、いきなり名前を呼ばれ、正面を見るとパワースポーツのタッキーと宮塚さん。豪華な応援の顔ぶれである。

 去年はスイムの途中から降り出した雨が、バイクスタートの時には結構本降りの様相となり、非常に寒く、走りにくく、大変つらい思いを味わった。今年は天気こそ曇りだが、さほど寒くもなく乾燥した路面を走れるだけでも楽である。バイクジャージとバイクパンツだけであるが、寒さもとくに感じない。

 タイトコーナーの続く富江の町を抜け、最初のエイドを過ぎるとすぐに地蔵トンネルである。2001年は峠越えのコースだったが翌年からはトンネルが完成し、走りやすくなった。ところがこのトンネルを抜けると、峠を隔てた反対側では雨が降ったらしく路面が濡れている。ことしもやっぱり雨は覚悟しなければならないのか。

 しばらく行くと大浜の下りにさしかかる。長い下りで50キロくらい出ているであろうか、橋の継ぎ目にけっこう大きな段差があり、ハンドルに衝撃。「ガシャ」という音とともにメーターが飛んでしまった。仕方なくUターンして100メートルほど坂を上る。ちょうど現場にいたボランティアも一緒に探してくれるが見つからず、あきらめる。時速が分からないのは不便だが、コース上の距離は大体頭に入っている。

 バイクコースは例年とまったく同じである。まず中央公園で30キロの折り返し。さらに鬼岳の南側を反時計回りに周回し、鐙瀬(あぶんぜ)、崎山を経て福江の街に入る。このあたりはランでも周回するコース。時おり霧雨のような細かい雨が降ってくる。

 福江の町で45キロ、最初の峠を越え、二本楠交差点を左折すると60キロ。幾久山の最高点200mを越えるとあとは延々と下りが続く。

 コース最南端の大宝の折り返し点で73キロ。ここのエイドでトイレ。なぜか早くも痛み始めた腰をしばし伸ばす。ここから北上して荒川で85キロ、ここから例の「3回上る坂」の1回目が始まる。途中まで上ったところで後ろから勢いよく外国人選手、ゼッケン8番のハンメル(?)が追い越して行く。

 再び二本楠、ここで90キロ。交差点で再びパワースポーツの応援。左折して周回コースの1周目に入る。すでにトップから数名の選手はゴール方向へ直進しているはずである。つまり先頭とはループ2周回、72キロ以上の差である。

 二本楠から岐宿まで北に向かうコースはいつも向かい風で走りにくいが、今年は追い風である。そして岐宿から三井楽を過ぎ、右側に日本海が見えてくると今度は向い風となる。高浜で周回チェック。100メートル級のアップダウンをいくつかこなして、ふたたび荒川へ。

 ここから二度目の坂を上る。荒川から坂のトップまでは約3キロ、12分。そこから2キロほど高速のダウンヒルで二本楠交差点まで下る。ここで126キロ。もう一度左折して2周回目へ。

 バイクの1周目にちょっと疲労感でダレたが、その後はなんとか持ち直す。エイドでもバナナ、クッキーを交互にもらって食べる。カーボショッツもパワーバーも食べられる。

 ジャパンではバイクとランに1箇所ずつスペシャルのエイドがあって、あらかじめ好きなものを預託できるが、今回は何も置いていない。去年のことを考えると、止まるだけ時間が無駄なような気がしたのだ。何でもエイドにあるものを食べればいいだけの話である。エイドではバナナ、オレンジ、梅干もある。クッキー、と叫ぶと熊本銘菓?の「まるぼうろ」、リッツクラッカー、黒糖をまぶした駄菓子のようなものを盆に載せて出してくれる。適当に手に触れたものをつかんで食べる。

 2回目の周回チェックを過ぎ、3回目の坂を上って二本楠へ。これでようやく直進できる。ここで126キロ。しかし坂は終わったわけではない。福江からの往路で下ってきた長い坂があり(この坂がいちばんいやだという人もいる)、この峠を越えて福江までの長い下りとなる。そしてこれが本当に最後の坂を上って中央公園のバイクフィニッシュへ。

 バイクゴールは9:16:14。バイクはけっこう練習したつもりなのに、成果がともなっていない。ほとんど例年と同じである。これではサブ13などはあり得ない。

 テントでバイクジャージをランシャツに着替える。これでは寒くなるかなと一瞬ちゅうちょするが、まあいいやと走り出す。ちょうどランスタートの時には天気も回復、薄曇りではあるが、ほとんど一日見ることがなかった日がさしていた。すでに4時を回っているが、福江島は日が長い。あと3時間は明るいはずである。

 ランのコースもいつもと同じ。中央公園の裏を回って1.5キロで折り返す。走り始めてすぐに対向ランナーから声を掛けられた。ホテルで同室のIさんだ。Iさんはもともとエクステラなどに出ている人で、トライアスロンはショートに1回出ただけらしい。約2キロ先行している。

 3キロで外の道路へ、さらに空港の滑走路わきの道路へ入る。ここでやはり同室のKさんとすれ違う。KさんはIさんのさらに2キロほど先か。滑走路わきの5キロ地点で2回目の折り返し。ここでIさんに追いついた。「速いですねー」とIさん。「先で待ってるよ」と私。ランスタートから脚はまったく問題なく、けっこう飛ばして走っているのだが、まだこのペースが本調子なのかどうか分からない。このペースでは最後までは無理かな、という気もする。Kさんはチームケンズの人で河原選手とも友達だ。トライアスロンはミドルまでとのことで、やはりロングは初めてである。まあこの人にも問題なく追いつけるだろう。スイムもバイクもいいところがまったくなかったので、ランだけでも頑張ろうという気持ちである。あわよくばサブ4、などとひそかに考えてもいる。

 空港から道路へ出る。バイクの最後の上り坂を、ランで下っていく。前方から大会車両を従えてバイクの最後方の選手たちが坂を上ってくる。10時間の制限時間にはおそらく無理と思われるくらいの時間である。このあたりのタイミングも例年と同じである。

 最初の5キロは27分台。走り出しはちょっと無理をしている感じであったが、すぐにペースに慣れてくる。10キロ、野々切交差点。5キロラップは27分台をキープ。しばらく行くとゼッケン50番、アワードパーティ、ビデオでもおなじみの遠藤さんに追いついた。速い71歳である。

 鬼岳の南側、鐙瀬を過ぎて崎山で15キロ。このあたりから福江の街までアップダウンが続く。5キロラップはやや落ちて29分台となった。しかしまだ無理なく楽に走れる。2周回目の選手も少なく、追い抜いた人数の分そのまま順位が上がっていく。Kさんにも多分このあたりで追いついたはずである。紺色のチームケンズのウエアを発見して声を掛け、追い抜いていく。ランスタートから約2時間。福江の町へ入り、22キロ地点、武家屋敷で周回チェックを受ける。7時を過ぎても日本の西端、五島ではまだまだ明るい。

 エイドはありすぎるくらいこまめにある。とりあえず1つおきに食べ物をとる。バナナ、クッキー(まるぼうろである)、黒糖菓子にかんころ餅が加わる。とにかく少しずつ何でも口に運ぶ。いつもだと20キロを過ぎたあたりから、食べ物に嫌気がさしてくるのだが、今回は何でも食べられる。飲み物は今回はコーラを主に飲んでいる。

 25キロ、まだかろうじてキロ6分を切っている。いつもだとエイドがあると足が勝手に立ち止まってしまうのだが、今回はまったく平気である。1つおきのペースを2つおきにしても大丈夫だ。

 2周目を3分の1ほど回った野々切のあたり、そろそろ薄暗く、30キロ表示を気にしていると、追い抜いた選手が後ろから声を掛けてきた。「横浜の?」「ハイそうですけど」「佐渡でご一緒したYです」。そうか、確か神戸の人だ。今回ジャパンは初参加。カンパーナホテルに泊まっているとのこと。ほとんど同じようなペースなのであるが、自分のほうがやや速いので、お先にと先行する。31キロ地点でラップタイムはキロ6分をややオーバーしてしまった。

ラン・ラップタイム
 5 27:13
10 27:29
15 29:10
20 28:23
25 29:29
31 36:51 (Yさんと会ったので30キロ地点をチェックミス)
40 54:49 (暗いので35キロをチェックミス)
F  11:19
 ふたたび鬼岳の南を回って崎山のあたりで35キロ。暗くなっているので距離表示を見過ごしてしまった。すでに7時半頃であるが、民家の前には応援に出ている人がいる。応援にはなるべく答え、追い抜くランナーにも声を掛けつつ走る。返事をかえす人もおり、黙々と自分の走りを続ける人もいる。2キロおきくらいにエイドの明かりが見えてくるが、もうそろそろ補給しなくてもゴールまでいけるだろう。残り3個所ほどのエイドを全部パスすることにする。

 最後のアップダウンを越えると、ラスト2キロ。五島高校のあたりが明るく見えてくる。すでにサブ4の望みは消えたが、疲労感もほとんどないので、どんどん行くことにする。

 ゴール1キロ前。集団の前にかなり間隔が開いていたらしく、ひととおり抜いてしまうと前方のランナーは見えなくなってしまった。沿道の応援の人は皆自分を待っていてくれたように応援してくれる。カンパーナホテルの前のネオンサインを左折、一人一人ハイタッチしながら、お堀を渡っていつもの通り、五島高校の校庭へ。13時間21分。自分の前後1分ほどはほかの選手も見えず、応援が盛り上がったので、なかなかいい気分のフィニッシュである。

 スタート前と同様、酸素飽和度の検査を受ける。フィニッシュ後は97でこれも問題ないとのことであった。仮設のシャワーを浴びて、同室のIさんKさんが来るかと見ていたが、Kさんはシャワーの間にゴールしたらしい。Iさんは制限時間を10分オーバーして残念ながらDNFとなったが、とりあえずフィニッシュまで走れたことで満足していた。

 ジャパンでのベストは昨年の13:46である。それからすると今回は上出来なのだが、いかんせんスイムとバイクが悪すぎる。ランとスイムであと21分短縮できればいいのだが…。スイムは論外だがバイクはかなり練習したつもりなので、若干心外な気がしないでもない。まあ、その分ランに余力ができたということだろうか。ランは自分でも気分よく走れたように思う。


対馬 達也 53 M 神奈川県
Swim   1:47:10 592
Bike   7:29:04 478 9:16:14 544
Run    4:05:00 202  
Total 13:21:14 371位(完走595人) G 23位


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