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■いのししコース:12.5マイル(20km)
トライアスロンでもマラソンでも、大会の印象を決定する要因はコース設定や天候などもありますが、大会の運営によるところが大きいのではないでしょうか。私自身はつねづね多くのアスリートと同様、オフィシャルやボランティアに対しては常に敬意を持って接しているし、まして批判的な態度をとったことはありません。しかし今回初めて参加した「トレイルランニング」において、主催者の対応について若干不適切な発言をしたことについて、まずこの場をお借りして自分自身反省をすべきであると思っています。
レースの終了後に何人かの参加者と言葉を交わしただけで、情報としては大幅に偏りがあるとは思うのですが、それにしても主催者の運営にはズサンだと指摘されてもやむをえない部分が多々あると思われます。端的にいうと多くのランナーが、ゴール後、寒い中でタオル一枚も無く3時間ちかくも待たされるというのは、いかがなものでしょうか。スピードランナーの中にはランシャツ、ランパンという人もおり、当然のことながら、そういう速いランナーほど裸に近い格好で長時間待たされることになったのであります。
この大会に参加を申し込んだのは締め切り直前の11月4日。大会案内が送付されてきたのは開催日の前々日の18日である。途中、コース図について問い合わせのメールを送ったのが15日、「もう送ってありますが着いていませんか」という内容の回答があったのは19日である。この辺から対応の悪さは分かっていたが、それも「手作り大会に近いんだろうな」という印象で、それはそれで好意的に解釈されるべきであると思っている。この大会、主催者には2つのNPO法人名が掲げられ、参加案内の封筒にはそれとは別の「チャレンジ何とか」という名称が発送元として記されていた。メールの回答は<べんさん>という人からだった。
この大会の2日前に案内が送付されてきたことは述べたが、その中に入っていたコース図も手作り感覚あふれるもので、よく観光地で配布されている「観光マップ」らしきものをコピーして、それにマーカーでコースをなぞってあるというもの。自分は地元でもあり、全体の概略は分かったが、それでもハイキングコースは40年も前に散策と山歩きが好きだった親父と歩いたことがある程度である。そのため、実は大会前日の19日に下見のため全コースを試走してみた。したがってコースの間違いやすい点や、ところどころに表示されている矢印表示の適切、不適切な部分も含めて、あらかじめ分かっていたのでコースを間違えることは無かったが、多くのランナーがコースを間違えたであろうし、実際に数名の集団がミスコースし、結果としてショートカットしたのも目撃した。逆に、ミスコースして余分な距離を走った人も少なくない。ゴール後2〜3人の速そうなランナーに「タイムどれくらいでした?」と質問しても、「よく分からない」という人ばかり、これらはミスコースして余分な距離を走った人である。
大会当日、6時に家を出発。港南台の駅から数分の港南台中央公園へ行く。7時の受付開始のときには数十人だった参加者は、受付を開始すると次第に行列が伸び、スタートの8時前にはおよそ200人くらいにはなったであろうか。支給されたゼッケンを着け、ビニールのゴミ袋に預託する荷物を入れ、ストレッチしながらスタートを待つ。
この大会、うさぎコース:3.5マイル(5.6km)、かもしかコース:7マイル(11.2km)、いのししコース:12.5マイル(20km)という3つのコースが設定されている。今回の「鎌倉アルプス」の大会は第1回となっているが、そのほかにシリーズでいくつかの大会が実施されているようである。シリーズでマイル数をためて、100マイルで何か特典もあるらしい。スタートを待ちながら2〜3人に聞いてみると、すべて初めて参加とのことだったが、あたりの様子では常連らしい人もいるようだ。
ちなみに「鎌倉アルプス」とは横浜市南部から鎌倉に続く尾根筋のハイキングコースの愛称であって、最高点でも海抜150mほど。八幡宮の裏山から北鎌倉に至る一帯と、鎌倉駅の裏山から大仏のある長谷を経て稲村ガ崎へ続く尾根筋の一帯とに分かれる、幅の狭いアップダウンの山道である。ところどころに長い石段もある。今回自分が参加する「いのししコース」は港南台からこれらのコースを経てゴールは稲村ガ崎までとなっている。自分の完走タイムからすると実際には20キロに満たないであろう。
ところで港南台中央公園の隅には2つのテントが設営され、一つは着替え用、もう一つのテントで受付が行われているが、その方式も手作り感覚で、氏名を申告すると表からナンバーを探し出し、他のスタッフがガサゴソとビニール袋をかき分けてゼッケンを交付するという悠長なもの。表は申し込み順に作ったものしかないらしく、探し出すのにたいそう時間がかかる。せめてアイウエオ順のリストを作っておけば早いのに、などと余計なことを考える。案の定、スタートは予定の8時をずれ込んでいる。
あたりの様子を観察すると、大半の人はデイパックを背負って走るようだ。ランニング専用の小さいものから、それで走るのと思われるほど大きなデイパックまでさまざまである。自分の身ごしらえはスパッツに薄手の長袖シャツ。荷物は持たず、お菓子少しと、小銭入れをビニールに入れてスパッツの背中に挟んでいるという、いつも通りさえないスタイル。見栄えより軽さを重視したつもりなのであるが、自分を含め薄着のランナーはむしろ少数派である。大半はウインドブレーカーやトレーナーを着用し、下は長いタイツあるいはトレーニングパンツ的なもの。ハイキングスタイルの厚着の人も少なくない。デイパックから給水のチューブを首元に出している本格派の人もいる。自分は500ccのペットボトルを手に持って走る。天候は昨日同様、寒いが晴れの予報で、スタートを待っているうちに少しずつ陽も差してきた。
やがて公園の中央に選手招集。簡単に「安全第一」という説明。そしてコースには8箇所のチェックポイントが設定されており、そのうち3箇所はスタッフがいないため、各自でチェックすること、という説明がある。そして「速く走りたい人は前の方に並んで」という指示にしたがって、集団は細長い隊形に伸びていく。「あれ?」どうやら自分が思っていたのとは反対の方向が先頭のようだ。と思ううちに先頭集団はスタート。タイメックスをあわせるのに手間取っているうちに、自分は最後方になってしまった。
港南台中央公園から南へ真っ直ぐに坂を上っていくと500m程で頂上に達し、港南台5丁目という交差点がある。ここを左角へ渡ると20メートルほどで消防署があり、その手前の路地を右へ、さらに50メートルほど行くと左斜め後ろへ曲がり込む細い道があって、ここがトレイルコースの入口となる。ここまでの間に自分は後方集団の先頭と思われる位置に追い上げている。自分は前日に走っているのでコースを間違えることはないが、はじめて走る人は集団についていくしかない。ゴール後に聞いた話では、先頭を走っていた数名のランナーは最初の5丁目の交差点を直進し、勢いを駆ってその先の下り坂を1キロ余りも下って原宿六浦線の県道にまで達してしまったらしい。おかしいと気付いて戻ったら、もうコース上には誰もいず、この時点で先頭集団が最後方集団になってしまったというのである。
コースは最初のうちはガラガラとした石ころ交じりの荒れた路面が続くが、そのうちにハイキングコースらしい様子となり、ここで第一のチェックポイント。背中のビニール袋からチェックシートを取り出し、ポイントに用意されているクレヨンで丸印をつける。このクレヨンがポイントによって色違いになっており、チェックミス及びコース違反を防ぐようになっているらしい。
しばらく行くとまたチェックポイント。3キロほどの間に4箇所のポイントがあり、これは面倒とチェックシートを手に持って走ることにする。そうするとパッタリとチェックポイントがなくなってしまった。
コースの途中、ちらほらと散歩あるいはハイキングの人がおり、「すいませーん」と声を掛けながら横を走り抜けていく。やがて自然観察センターという横浜市の施設から左方向へ向かい、原宿六浦線のトンネルの上を通る尾根の上を過ぎると鎌倉市に入る。ここまでは山道といっても幅が2mほどあり、路面も比較的踏みならされており走りやすい。しかし鎌倉の天園を過ぎたあたりからは道幅が細くなるため、追い抜くのが容易ではない。そこで前半のうちになるべく順位を上げておこうと、ここまでけっこう速いペースで飛ばしてきた。遅い人はひと通り追い抜き、中盤くらいには追い上げた感じである。前後の間隔もかなり開いてきた。
鎌倉霊園の裏手の山頂に茶店があり、ここが天園である。このあたりからは道も狭く、木の根も浮き出しているところが多く、ときには手を掛けて上るような岩場もある。数人のグループのあとに付いて走るが、上りでは渋滞し、下りでは離されるという繰り返し。とくに慣れている人は下りが速い。自分など、岩場の下りなどでは一歩一歩ブレーキを掛けながら降りていくのに、速い人は脚のクッションを生かしてスピードを殺さずに駆け下りていく。しかし下手に真似をすれば危険がともなう。一歩コースを踏み外すと、というより、足を掛ける場所を間違えただけで転落するような場所はいくらでもある。木の根も空中に浮き上がっているから、うっかりすると足を引っ掛けそうになる。下ばかり見て走っていると太い木の幹が頭上に張り出しており、頭を激突する恐れもある。トレイルランは危険なスポーツなのである。
コースはやがて鎌倉カントリークラブのフェンス沿いに今泉台の住宅地をかすめ、いったん明月院の奥の住宅地に降り、100mほど舗装路を走ったあと再び山道へと分け入って行く。
そこから延々と石段を登り、六国見山へ向かう。前日の試走ではコースを確かめながら走ったので、周りの景色を見る余裕もあったが、さすがにレースのペースは速い。一瞬、あれっと思ううちに先行する4〜5人のグループが左のトレイルを選んで進んでいく。竹やぶがトンネルになっているそのトレイルには見覚えがなく、一瞬声を掛けようかと思ったが確信がなく、自分だけそこで踏みとどまる。右上を見ると小さな展望台のようになっており、ここは間違いなく六国見山の頂上である。あわてて頂上へ上り、後続のランナーにチェックポイントのありかを確認するが、分からないというので仕方なくそのまま通過する。ここで先ほどの数名は円覚寺の境内から北鎌倉の駅の方向へ降りてしまったようだが、正しいルートはさらに大船方向に向かい、高野の住宅街へと進むことになる。
高野の住宅地へ降りると、なぜか今日は住民一同が総出で草刈清掃の日であるらしい。大勢で草刈をしている中を、ここでもスイマセーンといいながら駆け下る。子供たちも手伝って草刈をしている人々の間をかき分けるようにして、この狭い階段の道を100人以上がゼッケンをつけて走ったのだから、住民の間からは不満が出たことであろう。
ここからコースは平地へ降り、横須賀線の下り線ホームに沿って狭い道を北鎌倉駅へ向かう。1キロほどで円覚寺の前へ。時刻は9時過ぎで、早くも観光客がぞろぞろと歩いている。なかには「がんばって」と声援を送ってくれる人もいる。観光客の間をゼッケンをつけて走る姿は、どう見ても違和感があるであろう。恥ずかしい。
名月院への入口を過ぎ、踏切を右へ、すぐに浄智寺へと左折、境内を駆け上がるとここにも長い石段があり、上りきると源氏山公園である。ここまで4箇所のチェックポイントがあっただけで、いっこうにそれらしいポイントがない。公園へ上がったところで追いついたグループに聞くと「8箇所のうち3箇所のチェックポイントが取り止めになったらしい」との情報である。すると残りはあと1箇所のみということになる。誰もが間違いなく通るところだけチェックして、一番コースを間違えやすいところには、なんらチェックポイントがないという、何のためのチェックポイントかと首をひねってしまう。
コースはさらに佐助の裏山を抜けて南へと向かう。時おり左遠方に由比ガ浜の海が光って見えるが、足元に気を抜くわけには行かない。長谷大谷戸の上の尾根を抜けると大仏への下り坂、ここを中間まで降りたところにボランティアがおり、ここが最後のチェックポイントである。道路へ降りる手前で右に再び石段を登り、登りつめたところから極楽寺へ降りる。ここからは稲村ガ崎まで約2キロほどの下りが続く。
途中、コースに迷ったらしいランナーを2名連れて坂を下っていく。極楽寺駅手前で右折。ここからは地元であるから見知った人もいるはずで、なるべく顔をあわせないように、キャップを目深にかぶってスピードを速める。ゴール地点はレストラン「メイン」の裏手にあった。3人のスタッフがゴールを担当しており、ゼッケンを確認し、タイムをドットプリンターでロール紙に打ち出して、そのわきの余白にゼッケンを手書きで記入している。同時に一人が完走証にゼッケンナンバーとタイムを手書きで記入している。その場では完走証はくれない。自分の時計では2:02:XX、公式タイム(?)は2:05:39である。
134号の横断歩道を渡って稲村ガ崎公園へ行く、ここにも2つのテントが設営されており、すでに30人ほどのゴール者がいる。みなストレッチしたり、自分で衣類を持っている人は着替えたりしている。しかし、預託した荷物はまだ到着していないというのである。
しばらく待機するが、公園には「私はボランティアなので……」というおじさんが一人いるのみで、携帯で時おりやり取りしている様子だがいったい何を話しているのか。荷物はいつごろつくんですかと聞いてみると、先ほど連絡がとれ、八幡宮で渋滞に巻き込まれたがあと20分ほどだという。仕方なく待つ。天気が良く風あたりの少ないところを探して、日なたぼっこしている分には温かみも感じられるが、風は冷たい。家へ帰れば10分ほどで帰れるのだが、もうすぐ荷物も着くだろうと思えば、またここに取りに来るのもわずらわしい。家へ帰ればそれなりにのんびりしてしまうだろう。
そんなこんなで2時間半、荷物が着いたのは12時を回ってしばらく経った頃、それも2回に分けて。おそらく渋滞だけが原因ではないだろう。ある参加者が言っていた「この主催者のスタッフの数からいっても、3箇所のゴール設定は無理」というのが実情らしい。それにしても「もうすぐ着きますから」みたいな説明しかできないというのはどういうことだろう。
まあ、トレイルを走るということ自体は面白い経験だった。幕切れがお粗末であったのが残念ではあるが、鎌倉は第1回ということでもあり、あまり酷評すべきではないかもしれない。ボランティアへの暴言は絶対に許されるべきではないが、多少非難めいたことを口にしてしまったことについては反省している。
最後に完走証が配布されたが、そのスタッフも要領が悪いので、参加者の一人が代わって手際よく配布した。スタッフの「午後3時からセレモニーがありますので……」という言葉を背にランナーたちは会場をあとにしたのである。
完走証にはタイムとゼッケンナンバーのみ書かれてあり、順位はない。もちろん自分はそれで文句はないのだが、上位20名を他大会へ招待という特典も設定されているのである。上位を狙った人の多くがコースミスしてしまったということも合わせて、納得がいかない人も多かったのではなかろうか。この大会はそうした趣旨ではないというのであれば、そのような賞は設定すべきではないだろう。
この大会、ボランティアスタッフはハイキング関係の組織に属する人を駆り集めたというところだろうか、一様に年配のスタッフばかりであった。ゴールのテントに掲げられていた日本赤十字社のノボリと、そこにちんまりと座っているだけのお婆さんも意味不明であった。