完走できなかったIRONMAN JAPAN

                             

「リタイヤした選手の特権、美味しいビールを飲みました」

いま、歩いています。ラン20数キロ地点、3人で雑談をしながら歩いています。「いい勉強になった」を繰りかえす福岡からの50才台のおじさんと、にこにこ笑っているだけの岐阜の若者と私の3人です。「アイアンマンの制限時間は17時間なのに、なぜ、ジャパンは15時間なのだ」とぼやきながらです。

時間内完走は無理なので、2周回のランコースを1周したところでリタイヤするつもりでした。2周目にはいるところで立ち止まっていると、このふたりに「一緒に歩きませんか」と声をかけられ、「旅は道連れ」と早足で歩きだしました。ふらふらと走っている女の子を抜き、よろよろ走っているおじさんに抜かれ、エイドのおばさんたちと馬鹿話をし、快調に歩いています。それも、歩き出して1時間もすると、足の裏が痛くなってきたり、気温がさがって寒くなってきて、歩くのもつらくなってきました。相棒のふたりは回収車に乗ると言い出しました。「誘っておいて先にやめるなんて裏切りだ」と内心思ったのですが、誘惑には勝てず収容車に乗ってしまいました。29km地点、まだ、制限時間までに57分も残っていました。

ゴール地点に着くと、つぎからつぎへと選手が華やかなライトをあびてゴールしています。途中から回収車に乗ってきたなんて誰にも分からないはずなのですが、やはり、恥ずかしいので身を隠すようにして、預けた荷物を受け取り、宿に帰りました。そして、リタイヤしたものの特権である「美味しいビール」を飲みました。完走すると疲れすぎていてビールがまずいのは、ご存知のとおりです。

「冷たさに脈がどんとあがってしまったスイム」

20℃を切る海は冷たい。海に入ると、冷たさに脈がどんとあがってしまいます。アップをはじめたのですが、息苦しくて立ってしまうほどでした。冷たさに慣れ、浜にあがってみると、あまりの冷たさにアップをパスしてしまった選手がたくさんいました。きっと、スタート直後パニックになったのではないでしょうか。水の透明度は高く、コースロープが張ってあるので泳ぎやすいのですが、波がでてきてしまいました。大きな波ではないのですが、潮のながれもあって、沖に向かう時は、いつまでたっても海底の景色が変わりません。結果的には、だれもが通常のタイムより10分前後悪かったのではないでしょうか。

私の記録は1時間41分、チェジュの海をさまよった1時間51分につぐ悪いタイムです。

水温が低いため、2周回するところを1周だけでも完走と認めるとの特別ルールがスタート直前に発表されていました。1周終わって浜にあがったところで、「どうしますか」と聞かれたのですが、時計を見ると45分しか過ぎていなかったので、2周目に入りました。あとから考えれば、2周目が55分もかかったので、この一周さえなければ完走できた計算になります。

「坂また坂のバイクコースは私向きではありません」

やはり坂また坂のコースは私には向いていません。たった180kmの平均時速が、東京−糸魚川300kmの平均時速より遅いという結果でした。坂としては、周回しながら3回登った3kmの坂は大変だったのですが、他には、特に長いとか急だとか特筆するような坂はなかったように思います。しかし、坂の繰り返しがボディブローのように効いたようです。風もありました。なんと、8時間15分もかかってしまい、バイクゴールは制限時間の10分前くらいでした。これが、完走できなかった最大の原因です。

途中、海で2時間以上も遊んでいた対馬さんが抜いていきました。小さなループを2周するところでは、2周目の本吉さんが、真剣な顔で「塚越さんは、どのくらい前にいる」とききながら追い越していきました。スイムも速くないので、私の後ろにはそれほどの選手が残っていないはずなのですが、つぎからつぎへと、私を追い越していきます。もう、そろそろびりになったのではないか、と思うころにゴール。なぜ、遅いのかを考えているのですが、いまもって、回答はでていません。

「早歩きもくたびれます」

ランのゴールまで残された時間が5時間5分。これまでの実績からすると5時間30分前後必要なのです。この時点で、完走をほぼあきらめました。しかし、奇跡がおきるかも知れないと走り出しました。快調だった走りも、いつものキロ7,8分ペースになってしまいました。走り出して10kmもいったところで、2周目にはいっている秋葉さんが、「松岡さんが、すぐ後ろにいる」と追い越していき、しばらくして松岡さんが追いついてきました。なんとか走り続けていたのですが、1周目が終わる頃には、歩きがはいってしまいました。20km地点で2時間37分かかってしまいました。残すところ22.195km、これを2時間半足らずで走らなければなりません。ちょっとだけ(?)間に合わない計算になります。(そして、この完走記のはじめにつながります。)